Bone Gnawers
Down and Out in the Last Times


「ほれ、おめかししな。いかしたジャケットだぜ、リッチなもんよ。おい、泣き言を言いなさんなって。染みだって落ちるさ、そのうちな……」

ゴミ捨て場の野良犬
誇りあるサバイバリスト
都会の陰に潜む義賊
狡知に長けたネズミ

はじめに
 わたしは、スターゲイザーのラガバシュにして『ウロボロス派(Ouroboroans)』に属す者、名を『絡み合う七匹の蛇(Tangled-Seven-Snakes)』の禅道(Zen-Do)という。ボーン・ノーアー(骨齧)のことを知るべく、その部族の一員から話を聞くことにした。彼は大阪に住む老ホームレスで、『浪花のシェイクスピア』を自称している。『あいりんの桂冠詩人』『新世界の吟遊詩人』などとも呼ばれているそうだ。

「おう、ニイちゃん、久しぶりやな。また、わしの歌、買いにきてくれたんか。今日は一首エエのができたんや。『段ボール 一枚隔て 堪え忍ぶ 霜枯れ時の 骨齧ひとり』――どや、これがたったの百円や、安いもんやで」
 『浪花のシェイクスピア』は歌を書きつけた短冊をヒラヒラと振ってみせた。
 わたしは苦笑した。彼が『段ボール御殿(Cardboard Palace)』の儀式によって快適な一夜の宿を作り出せることを知っていたからだ。
「わしの部族のことを話せって? なにが嬉しゅうて、そんな一銭もならんことせなあかんねん。え、差し入れやと、それをはよ言わんかいな……おっ、ワンカップあるやんけ、気ィきいとるがな」
 彼は瓶の蓋を開け、『ゴミ山(Trash Heap)』のトーテムに感謝を捧げると、中身をぐいっとあおった。
「さあ、いっちょ話したろか。そや、人の受け売りでもエエか? 最近インターネットでニューヨークにおる仲間と話してな、向こうで『N.Y.のシェイクスピア(Shakespeare)』を名乗っとる奴なんや。そいつの話のほうがたぶんオモロイやろ、ニイちゃんには」
 老ホームレスの口からインターネットという言葉が出てきたのには驚いた。だが、彼は『無くした鍵束の環(Lost Keyring)』というフェティシュを持っている。それを使ってどこかに忍び込んでいるらしい。知識はグラスウォーカーの知り合いから仕入れているにちがいない。前に『日本橋のガジェット(Gadget of Nipponbashi)』というG.W.と話しているのを見かけたことがある。
「さてと、話を始める前に、わしの好きな詩をひとつ聞かせたろやないか」

ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破つて、
しらじらと雨に洗はれ
ヌックと出た、骨の尖。
起源
 よっしゃ、どっから始めよ。なんやったら事の始まりまでさかのぼるか。わしら、ノーアーにも、シャドウ・ロードとかシルヴァー・ファングとかいった連中みたいに、まあ大袈裟な始まりの物語があるんや。それがホンマかどうかに賭けるつもりは全ッ然あらへんけどな。実際どっちゃでもエエことやし。ほんでも、ようできた物語やで。たまにこうやって道端で聞くぶんには。
 ボーン・ノーアーの祖ゆうのはシルヴァー・ファングの祖のちっこい弟やったらしい――まあ言うたら、同腹の中のみそっかすやな。そんでも喧嘩好きのチビガキやったから、獲物を仕留めるために闘うようなったら、兄弟の中で一番強い戦士に成長したんや。実際のとこ、シルヴァー・ファングを凌駕しとったらしい。けど、わしらの偉大な御先祖さんはこれでもかいうほどチビでガリガリなうえに、やたらめったらやかましいもんやから、狩りでいっちばんおいしい役どころから外さ れることがようあったんや。群れの中のバカでっかいだけの畜生どもが分け前にありついとるちゅうのに、痩せのボウニィは残り物を喰うしかあらへん。けど、あえて御先祖はそれに甘んじた。ほかの狼みたいにブクブク肥えるよりは、老いた硬骨漢のように、痩せのみすぼらしい姿でも屈強であることを選んだんや。
 ある日、ボウニィは少しも餌にありつけんかった。もう二度と狩りから締め出されるつもりはあらへんかった。そこで、御先祖のやったことは、兄貴のファングをペテンにかけることやった。みなで仕留めた獲物が病気にかかってるとファングに思わせたんや。ボウニィが御馳走にとびついたとき、ファングは腐った肉を喰らった行為が背徳であり「ワームの」所業であると断じおった。あげくに、すっこんで骨でも齧っとけと御先祖に言いくさりやがった。
 ボウニィは小便ひっかけて、とにかく最後まで食事し終えた。そしたら、ワームが出てきよった、今度はホンマモンのワームや、地面からすさまじい勢いで襲いかかってきたんや。ファングは真っ先にヤられてしもた。群れのほかの狼たちも手ひどい傷を負うた。ボウニィはすきを窺うようにじりじりと進んで、攻撃のタイミングを見計ろうた。ごついワームの弱点をついたる絶好のチャンスは見逃さへん、見事そこに噛みついたった。歯は骨にまで達し、顎をがっちり閉じて、まさに いつもの癖で齧りついとった。ごっつい化け物もあまりの傷の痛さに泣き叫んで逃げてしまいよった。ボウニィのとっつぁんは身を離すんがやっとやった。
 この顛末を何もかも御覧になってたガイア様は、こう言わはった。「それでは常にかくあるべし。骨齧の子らは思慮深く機会を窺い、生き延びるための最善の時が訪れしとき打って出よ」
 まあ、そんなふうなことをな。とどのつまりや、そういうわけで、ボーン・ノーアーはよっぽどの理由がないかぎり己の首を危険にさらすようなことはせんのや。わしらはその信条をできるだけ貫き通すのが務めやと思うとる。ひょっとしたら、ほかの連中がヘマやらかしとんのを黙って見てんのは、わしらを頼りにしてほしいからかもしれへんな。そやのうたら、ガイア様が勝ち残る最後のチャンスはわしらにかかってるっちゅう話を真に受けてんのかもしらん。誰にもわからんこっ ちゃ。そんなこと考えてるヒマがどこのどいつにあるっちゅうねん。

解説

DO SURVIVE! 渇いた心が
DO SURVIVE! 求めて泣いている
DO SURVIVE! 明日さえ見えずに
終ることのない旅路の果てで
   ――KODOMO BAND,“SILENT SURVIVOR”
 ほとんどのガルーは、ボーン・ノーアーのことをガルー社会の屑、人間のゴミ溜めの中で暮らしている哀れな腐肉喰らいとみなしています。しかし、ボーン・ノーアーは生き延びることが礼節を守ることに優先すると確信しているのです。人間社会から出る残飯を頼りに生活しながら、この部族はほかのガルーから蔑まれるのを堪え忍んでいます。とはいえ、ほかの部族が勢力に衰えを見せているのに対し、ノーアーは栄えてきました。全部族の中で、ボーン・ノーアーは最も数が多いかもしれません。
 このしぶとい雑種の一族の系統をたどっていくと、インドおよびアフリカに起源を求めることができます。もしかするとジャッカルの血を引いているがゆえに、ノーアーは人間の文明に溶け込めたし、誰が誰に何をすべきかすべてわかってしまう並外れた能力を持つのかもしれません。ボーン・ノーアーが近所にいるなら、どんな秘密も長くは隠しておけないでしょう。
 ボーン・ノーアーは典礼の優雅さや高邁な理想にはほとんど関心がありません。どんなことがあろうと、生にしがみ続けることがノーアーの原動力なのであり、自由こそ彼らの追い求めるものです――階級や財産のしがらみのない自由が。ノーアーは手に入るものなら何でも糧にして生きていけます。このサバイバル観はノーアーをゲリラ戦に最適な屈強の部族に育てあげました。ボーン・ノーアーを、ゴミ捨て場をうろつく犬のようなものと見くびってはいけません。
 このガルーたちは不潔がちでむさくるしく、捨てられた衣類を身につけ、日々残飯をあさっています。たいてい冷笑的で世を拗ねていますが、ねじくれたウィットとスラム街で生き抜くための知識を豊富に持っています。ノーアーは落ちぶれた人々に強く共感を寄せ、社会から見捨てられた人たちを保護下に置くこともあります。ボーン・ノーアーの古老たち――よく「おやっさん」または「おっかさん」と呼ばれます――は自分たちの「家族」のために財産を蓄えています。ノーアーの 地位は、そういった財産の価値や、それを気前よく与える度量の広さで測られることが多いようです。
 人間の都市はボーン・ノーアーの縄張りであり、そういった地域の知識はグラスウォーカーをも凌ぐほどです。もっともノーアーがいるのは鼠が這い回ってるような地域に限られていますが。ノーアーは互いの安全を確保するためにたびたび結集し、時には人間やキンフォーク(親族)の浮浪者や家出人、無宿者を「採用」します。ノーアーの多くは、酒や麻薬、ジャンクフードといった人間の誘惑に屈していますが、それは彼らを弱めるというよりむしろ強靭にしているように見えます。あるボーン・ノーアーの古老などは、ダーウィンの法則の生きた証といえるでしょう。さしものワームも用心することでしょう。

歴史
 わしらの歴史で最初に記されてあんのはハムラビ王のことや。あいつは鼠のことで頭を悩ましとった。で、わしらはあいつの街ん中をうろつく野良犬やったと。そのころ人間の数があんまり増えすぎんように鼠を使っとったんや……インペルギウムの時代からずっとやってたこっちゃ、疫病と飢饉で人口を抑制するときはな。インペルギウムにおける務めを果たしとったちゅうわけや――なにも好き好んでしとったんちゃうで、無理やり従わされとったんや、シルヴァー・ファングに――ジーク・ハイル!
 次はと、えーと待てよ――おう、そや! わしらは船乗りの先駆者たちとともに旅した民やった。ノーアーが世界に名だたる船乗りやとは知らんかったやろ。ほれ、船に鼠が乗ってないなんてこと今までにあったか? わしらと鼠の相棒らが草分けとなって、ガルーは世界じゅうに散らばっていったんや、ムーン・ブリッジがみーんな結び付ける以前はな。泳ぐのもかなりうまいんやぞ、「海の犬(Sea Dog:水夫)」ちゅう言葉を聞いたことあるやろ……わしらのことや。よっしゃ、 「犬かき」並みのジョークはこれで終いにしとこ。
 冒険好きな奴のなかには、海賊やヴァイキング、あと何やかやと一緒に航海に出るもんもおった(ゲット・オヴ・フェンリスと一緒やったなんて、ちょっと信じられへんやろ!)。昔は今とくらべてもっと向こう見ずなとこがあったんや。当時は分別ゆうもんがこれっぽっちも頭になかったんやろな。ほれ、人間が街に腰落ち着けて住むようなってから、やっとわしらの生活もホンマ文化的になったわけやし。
 わしは最古参の「爺っさま」らと上古の祖霊たちからいろいろ話を聞いてきたけど、街の外で生活することを選んだノーアーについては話してくれんかったな。たぶんこれから先知ることもないやろ……もしかしたら、オーストラリアの地に流れ着いた奴らがおるかもな。ボーン・ノーアーの祖はバンイップの祖でもあった、なーんてな……
 さてと、ローマのことをざっと振り返っとかんとな、生き残るとゆうことが何なのか理解しおったボーン・ノーアーのグループのことを知る前にや。ローマで学んだことはようけある。ローマ人の捨てた屑で生活していくんがえらいうまなった。ローマの建物の暗い廊下や地下通路をこそこそうろついたり覗きまわったりすんのもうまなった。そんでから、憎むようになった――要は我慢ならんかったんや――奴隷と隷属ゆうもんをな。隷属をやめさせるためとか、そうゆう貧しい奴隷たちを救うためなら何でもやった、何がなんでもな。はっ、わしかって、おまえさんがストリートの乞食ホームレスでも全然気にせえへんぞ……少なくとも奴隷の境遇に落ちた乞食ホームレスにはならへんわ、わしの目の黒いうちは絶対にな!
 どないした、退屈か? ええ、ホンマにぃ? さてはフッドのことが聞きたいんやろ。そんじゃ、話ばーんと飛ばしてまうか。ん、よっしゃ、ほなら話そ。

 ロビンフッドとその愉快な連中(Merry Men:手下たち)の話はぜーんぶ聞いたことあるやろ、あん? えとな、あいつら、わしらからやり方を学んだんや。その手のことは長い間やっとったからな。当時、貧しい者が搾り取られるんは見過ごせんかった、わしらも貧しかったからな。貧しい連中に降りかかることは、結局わしらんとこにもお鉢が回ってくることやったんや。
 昔は金持ちから盗んで貧乏人に分け与えたもんや。要は単に金持ちブッ殺して、何やかや奪って、みんな分け合ってたんやな。ノルマン人が侵略してくるずっと前からそんなことやってたんやけど、世間の連中にはようわからんかったやろ。当時は紙幣を発行する中央銀行なんてもんはなかったからな。あっちゃこっちゃで硬貨がいくらか無くなったところで、大した騒ぎにはならんかったわけや。
 中世という時代は、わしらにとってちょっとした盛りやった。パリ、ロンドン、トレド、キエフ、ヴェニスといった都市でうまくやっとった。そんでから、ヴァイキングその他の商人の外洋船に一緒に乗り込んで、行くとこどこにでも付いていったもんや――まさにひょいと乗っからせてもうて、制覇すべき新たな都市を探し求めたっちゅうわけ。
 実際、ゲット・オヴ・フェンリスのヴァイキング伝の多くにボーン・ノーアーの脇役が登場しよる。ゲットの軍将(いくさぎみ:warlord)の栄光を引き立たせるためと、コミックリリーフ(喜劇的息抜き場面)を提供するためだけにな。ホンマのとこは、ま、賭けてもええけど、頭の回るボーン・ノーアーの水夫のおかげでゲット・オヴ・フェンリスの汚いケツが救われたことは山ほどあったやろな。
 それから中世の末期になると、事態は悪うなった。多くのもんが、黒死病その他の疫病が蔓延したんをわしらのせいにしよった。そらまったく無関係とはよう言わんけど、ボーン・ノーアーは疫病が広がるんをくい止めようとしたっちゅう話もちょっと耳に挟んだことがある――アホンダラ、こき下ろされんのはいっつも貧乏人や!
 悲しいかな、病気運んどんねんけどな。わしら頑丈でピンピンしとるもんやから、ほかの連中じゃとてもかなわん病気にかかっても平気なんや。そやのに病人や死にかけとる貧乏人を助けようとするもんやから、病気をもっと広めてしまいよる。わかっとんがな、当時はかなりマヌケやったゆうこっちゃ……そやから『人禁令(the Ban of Man)』が施行されたんや。何やそれって? まあ待てや、また話に出てくるから。
 異端審問の嵐は結局静まっていった。魔女狩りや、銀の十字架振りかざすイカれた坊主どもからは、かろうじて逃れることができたんや。ま、身の隠し方を知っとったからにすぎへんけどな。『火刑の時(Burning)』には多くのガルーをかくまったもんや。それと、ほかにも闇の世界の住人どもを一緒にかくまったった。おかげで「不幸が縁で奇妙な友情が生まれる」っちゅうことになった。そんときや、実際ノスフェラトゥと知り合いになったんは。そいつらのことはまた後でもっと話したる。
 ルネサンスがはじまったころ、事態は二度ともとには戻らんかった。わしらはイタリアに栄えた都市国家で暮らし、パリの(人通りの絶えた)街頭でうまいことやってた。ウィアウルフは迷信の域に追いやられてしもた。わしらのうち、どんだけのもんが生き延びたんかはようわからん。

 さて、部族の古老らが秘密の集会を開いた。全ノーアーの召集、すなわち『笛吹き(Piping)』の時がきたという結論が出たんや。ラットキン(Ratkin:鼠眷)の仲間が大急ぎであちこち奔走してくれた。船を使い、ムーン・ブリッジを使い、徒で歩き、田園を狼の姿で駆け、バルセロナへと急いだ。その地でノスフェラトゥから秘密の地下墓地を借りて大集会(Grand Moot)が開かれたんや。話し合いは長引いたが、全員がのむことのできる結論が出るまでは、誰ひとり退席せんかっ た。で、得た答えが『人禁令』や。ムッチャ単純やから、バカでもチョンでも覚えられるわ。では、みなさん、御一緒に言ってみまひょか……
「人が生き延びるのを助けるなかれ、我らが生き延びるのを脅かさぬ限りは。人を傷つけるなかれ、我らを脅かさぬ限りは。食べ物のために人を殺すなかれ、死を目の前にせぬ限りは」
 これでもう田舎を放浪したがる者も、飢えた連中にやる食い物を集める者も、ホームレスに寝る場所を探したる者もおらんようなった。自分のことで頭が一杯やったんや、どうしようもない。ラットキンみたいに狩り出されるわけにはいかんかったし、チルドレン・オヴ・ガイアみたいに己が生き残れんようになるような危険を冒すわけにはいかんかった。
 それから、海の向こうの土地のことを耳にするようなった。つまり新世界や。通天閣のあるとこちゃうぞ、わかっとるってぇ、スマン。わしらのうち数人がどうにかこうにか船ん中忍び込んで、その目で確かめおった。そこは豊かな土地やった、ただでいくらでも食い物が手に入った――お宝もな! 行く先々で、金や宝石を譲ってくれる親切な原住民が待ってたんや、わずかなガラクタ支払うだけでやぞ!
 新たな『笛吹き』の時がきたんや。今度はポルトガルのリスボンに集まった。部族全体に海の向こうの富にあふれた広大な土地のことが伝えられた。新世界から見りゃ、ヨーロッパの旧世界なんぞ不満のかたまりよ。フランスは別にしてな。あそこじゃ、多くのノーアーが専制君主制を打破しようと手ェ貸してたんや。
 そんなわけで、わしらの民のエクソダス(脱出)が始まった。気前のよさとたかりの巧さで名を知られた、コラソン・バイトファインダーに率いられて、ノーアーらは大海を渡って新世界へ向かうあらゆる船に潜り込みはじめたんや。
 行った先でヨーロッパとおんなじように搾り取られるとは、これっぽっちも思ってなかった。少なくとも舞台は変わったけどな。

 こっからはアメリカの話やけど、ちょっと端折らせてもらうでぇ。ノーアーはいつも下っ端の兵士、生き抜くための闘いの連続や。わしらは毛皮猟とかしてフロンティアを開拓していった。ウェンディゴとウクテナはあんまり友好的やとはいえんかったな。連中の生き方を学ぼうとしてみたんやが、人間がそやったようにただただ困惑するばかりやった。現在でも好かれちゃおらんけど、互いに敬意だけは払っとる。ほかの奴らがやったような虐殺には荷担せえへんかったしな。例の『人禁令』があったからや。ウェンディゴはそのへんのこと認めとる。けど、そんなこと関係あらへん。ピュア・ワンズの奴らはわしらのことをほかのガルーと同じように考えとる――連中助けようゆう気もおこらんで、こらぁ。
 独立戦争でやってた仕事ゆうたら、潜入およびスパイ活動、それに戦場で死んでいくことや――違いなんかこれっぽっちもあらへん。わしらは社会から見捨てられてしもた、役立たずどもがみなたどる運命や。多くのもんがラム酒と阿片に頼るようなった、なんとか乗り切ろうと思うてな。
 かなりお寒い事態になってもうてた。厳しい冬の時代や。みんな死にかけとった。新世界の街は小さすぎて、わしらを養っていけんかったんや。
 次にどうなったか。おう、そうや、ノーアーはいつものことをしたんや、切羽詰まったとき、てんやわんやの大騒ぎになったとき、終末の日の最後一分一秒まで必ずやることを――よう聞け、あの胸糞悪いウィーヴァーに真っ向から立ち向かい、目ん玉見据えて言うてやった、「別なやり方があるわい!」ってな。わしらは回ってきたおこぼれで何がしかこさえて、それをガキどもに配りーの、ガキどもはそのまたガキどもに配りーの、とやっていった。そうやって生き延びたんや。まあ、お気楽極楽な生活とはいえんかった。シャレてもおらんかった。けど、そら大したもんで、わしらはやってのけたんや。
 南北戦争でも一端を担った。ごっつ重要な役割や。ンダラァ、わしらにはその筋じゃ最高ォのスパイらがおんねんぞ。さぁて、わしら『人禁令』で縛られとったんちゃうんか、そう思ったやろ、んん? そらまぁ、そやけど、当時アメリカじゃあ奴隷のことなんか、だぁれも気に留めてなかった。で、『人禁令』なんぞ構ってられんようなった。かのタブマン女史(有名な奴隷解放運動家や)が奴隷を逃亡させるのをできるかぎり手伝ったもんや。
 それから到来したんが、あのとんでもない『産業という名の獣(Industrial Beast)』やった。世界はまた一変してもうた。わしら部族は歯ァ食いしばって、多くを学んだ――蒸気に電気、火薬のことをな。機械、建築、エンジニアリングもどんとこいや。わしらは――なめとったらアカンど、グラス・ウォーカーの阿呆どもが何ぬかしてけつかるか知るか、ボケィ!――わしらこそは、機械ん中棲む精霊や蒸気のエレメンタル、電気の精霊なんかと最初に話をした部族なんじゃい。わしらが最初や! しかもストリートの精霊と仲良うなったのも、わしらが最初やぞ。
 ウィーヴァーが狂うてしもたとき、人間ども活気づきおって、自らの手で気狂いじみた蜘蛛の巣をかけはじめよった。鉄とスティールの蜘蛛の巣をな。貧乏人は鉱山や工場で働かすのにうってつけやと決めつけられた。飼い葉みたいにかき集められてデッカい機械の口ん中放り込まれて、やっすい賃金で身体ボロボロになるまで働かされたんや。みーんな素敵なお宿から追い出されて、穴蔵みたいな住居やゲットー、下水道やらに押しこめられてしもた。思い知らされたでぇ、人間どもの構想にはわしら貧乏人の居場所なんかあらへんかったんや。わしらの息の根止めるため突如姿を現した大怪獣には到底太刀打ちできんかった。

 やれやれ、アメリカの話はもううんざりやな。なに、もうちょっと聞かせろ? 勘弁してくれや……しゃあないなぁ、ほんなら、かいつまんで話そか。
 それから、『アメリカン・ドリーム』ちゅう精霊が生まれたんや。一生懸命働いたら、それだけ報われるゆう夢やな、いや実際そうやったんやろけどな。ま、アメリカ人の拝むトーテムなんぞに、わしゃ興味あらへん。
 んでから、あちらで言うところの「狂乱の1920年代」か。戦争に勝って浮かれとったんや。車と酒と犯罪があふれた時代やな。街ではグラス・ウォーカーが華々しく活動しとった。わしらを街のケルンから追い出そうとしたが、こっちもそう簡単にやられてたまるかいな。とはいえG.W.は強大やったから、結局連中と手を結ぶことにした。あちら頭脳労働、こちら肉体労働というわけや。このコンビは実にうまいこといっとった。G.W.もわしらの働きを認めてたし、大集会に代表者を出す権利が与えられたほどや。
 ところがブラックマンデーでみなおじゃん。1929年の世界恐慌を予言した者は部族の中にもおったんやが、見過ごされとった。この一件で、今じゃ、わしらの語り部たるガリアードは重んじられとる。失敗から学んだことや。何にせよ、大恐慌でグラス・ウォーカーのパレードもおしまい、連中はすぐさまわしらを蹴りだし、サポートを打ち切りおった。ま、どうしょうもないわな、顔で笑って心で泣いて、貧乏人らと一緒に耐えていくしかあらへんかった。
 それからどうしたかって? いつもやっとることや、わしら、ワームがお天道様を呑み込んでまう日までやるでぇ。ここでも生き延びた。街のリンゴ売りからはじめたんや。これぞ最初の失業対策やな。ホワイトハウスには家政婦のプレストン夫人ちゅう、ど偉いボーン・ノーアーがおった。ルーズベルトに雇用促進局のアイデアを吹き込んだんは彼女や、アメリカを立て直したのはわしら部族やゆうても過言やない。
 30年代には、わしらが付き合ってた『蛭(Leech)』ども、ノスフェラトゥのことをよく知るようになった。ブッサイクな格好した連中やが、そこらのシャドウ・ロードよりは余っ程信用できるわ。そらまあ、エエとこばっかりやない。けどな、双方が協力してなかったら、大不況のなか共倒れになってた思うで。わしらは隠れ処と保護を約束し、連中は政府の組織がケルンに何ぞ建設したり、公園に作り変えたりせんように確約したっちゅうわけや(セントラル・パークはまた別の話や)。
 お次は第二次世界大戦か……冗談やないでぇ、アメリカのクソ話をわしにせえってかぁ? アメリカちゅう国は『アポカリプス』――世界の終末への扉を開きおったんやぞ! プレストン夫人はマンハッタン計画を中止するよう警告したし、トルーマンには原爆を使用せんよう忠告したんや。それをあの阿呆、無視しおってからに。広島と長崎の物語は、わしらのガリアードによって語り継がれていくやろう、これから先ずっとな……黙示録の刻は始まっとる、覚悟決めとくこっちゃ。

 現代のことも話せって? そんなもん世の中見渡してみぃ、嫌でもわかってくるわい。不況の真っ只中、失業率は上がる一方やし、都会の野宿生活者はどんどん増えとる。福祉政策はお寒いままやし、世間の目も相変わらず冷たいかぎりや。けど、わしらは生き延びるでぇ、いくら蔑まれようとな。
 ほかの部族のガルーどもはワームにブチ殺されていっとる。アマゾンで起こっとることはもう知っとるやろ。日本も危のうなったもんや、凶悪事件が多発しとる。ワームは今まで知らんかったような姿で現れてきよる。このままいったら、ガルーも先は長うないで、ホンマ。
 おう、わしらだけは別やぞ。ボーン・ノーアーは常に健在、これからもな。予言にもあるとおり、わしらこそ最後に残る者や。そんときゃ、ワームにちょいと説教垂れたらんとアカンなぁ……

社会
 古老の連中にわしらは敬意を払っとる。なんでかわかるか。そらな、くっそいまいましいことに、わしらの重たいケツを蹴り上げる力を持っとるからや。しかも、経験豊富ときとる。古老ってのはそういうことや。わしらが話にしか聞いたことのない何やかやを生き抜いてきとる。ボーン・ノーアーにとっちゃ、歳をひとつ重ねるゆうことは、それだけ分別がつくゆうことよ。ということはや、ボーン・ノーアーの中で何らかの地位を占めよう思うたら、間抜けやったり、しみったれやったりしたら、とても無理やっちゅうことや。養ってるノーアーが多けりゃ、稼げる点数も高いわな。持ってるブツが多けりゃ、慕ってくれるもんも多くなる。これぞ、ボーン・ノーアーの流儀ってやつよ。

『禅とブツ鑑定技術(Zen and the Art of Stuff)』
 「ブツ」とは何ぞや? クソよりはちったあマシで、お宝よりはちょっと落ちる。それがブツよ。ええか、いかした代物ちゅうのは、必ずしも物本来の有用性を備えとるわけやない……大事なんは……そう、イケてることや。こんな風に考えてみよか――腕時計があったとせいや。それがローレックスやなかったとしたら、そらクソや。裏に「わたしのJ.T.へ――愛をこめて シェリー」なんつー粋な文(外人のセンスやけどな)が刻まれてなかったとしたら、そらゴミや。ちゃんと動いとったら、ちっ、そらお宝よ、何か刻まれてようとなかろうとな。つまりやな、ちゃんと動くんなら難波の質屋で引き取ってくれるがな。けど、それがキレイで、イケてりゃあ……ブツでもあるゆうこっちゃ。けだしポルノみたいなもんや――どう説明したらエエかわからんけど、ひと目見りゃわかる、そういうもんや。
 古老らは一番エエ「ブツ」を持っとる。もちろん、古老になったら、下の者がブツを捧げてくれるようになる。若いうちはそのためにあさり回ることになるんや。そういうことやから、わしらの大半がさっさとケツあげて、ほかのガルーと世界じゅうを駆け回っとる。いかしたブツ見つけて、それを手に昔なじみの場所に戻って、「ミナミの大名」として世にはばかるためにな。

 ほんでから、仲間を養っていかなかん。大したこっちゃあらへん、必要なんは、ちょっとした知恵と、威厳たっぷりな態度、ちぃとばかしのツキだけや。養ってるもんの数が多けりゃ、それだけ敬意も払ってもらえる。すぐにみんなから「とっつぁん」か「おばはん」と呼ばれるようになる、自分でも知らん間にな。そんで自ら「とっつぁん」「おばはん」と称するようなったら、これまたようわからんうちに、モノホンの古老になっとるちゅうわけや。コトはそんな風に起こりよる。大掛かりな式典なんかあらへん。紙吹雪の舞うパレードもなしや。ただそうなるだけのこっちゃ。自分のこと見知っとるボーン・ノーアー全員の合意で決まるんや。敬称を得たゆうことは、それだけの評判があるゆうことなんや。もちろん、そんな評判も得てないくせに「とっつぁん」「おばはん」を自称する輩はいつの世もおるけどな。そういう連中はあんまり長続きせんか、ホンマに言葉どおり実践していくようなるか、そのどちらかや。
 あとは簡単、単純明快や。「おばはん」に何かするよう言われたら、そうせなあかん、クソッタレが、質問は無しじゃ。「とっつぁん」に跳べと頼まれりゃあ、何はさておきどれだけ高く跳び上がったらええんか聞け! そのかわり庇護を与えてくれるし、安全も保証してくれる、ほかの部族のめでたいバカがいらんちょっかいかけてこんようしてくれる。そらまさにガイアの真理ちゅうもんや。
 さぁて、「とっつぁん」らと「おばはん」らがみんな、下のもんをこき使うクソ野郎のお偉がたどもやと思っとるかもしれんけど、そうとも言いきれん。わしらは互いに敬意を払っとる。若いもんはすべてを捧げることになるけど、古老らがほんのささいなことで下のもんをいじめるようなこたぁない。細かいことは気にせえへん。ただし、ぜーんぜん見張ってへんとか、何をやっとるのか知りおらんとか、そんなことは思わんこっちゃ。規則破るたびに叱りつけたり、きっちり守らせたりせえへんからゆうだけでな。デカい事件が起きたとき、ホンマの大ポカやらかしたときのために、取っておきの怒りをためとんのや。そんときは――ほっほう、オマエ! さっさ死にたくなるぞ。この世に「おばはん」なんていなけりゃよかったのに、ってな!

『楽しいキャンプ生活』
 毛色のちゃういろんなボーン・ノーアーがおるけど、みんな同じきずなで結ばれとる。ジャッカルの血と生活の貧しさでな。そうはゆうても、ノーアーかていろんなグループやキャンプを組んで、同じ目標や方針のために闘いたがるもんや。わしらの部族のキャンプがそれぞれどんだけちゃうか教えたるけど、そのことにあんまり囚われんようにせえよ。どんだけ血脈が薄なってっても、どんだけ血統がいいかげんであっても、わしらはまさしくひとつの部族なんや。

ザ・フッド(The Hood)
 フッドのことはさっきちょっと話したな。「富める者より盗み、貧しき者に与える」連中の元祖や。そう、奴らははるばるアメリカにも行って同じことしとる。奴らが何者か、さあそらわからん。偉大な古老らが正体現したもんをみな追放してきたからな。けど、そら単に『人禁令』破っとるせいやぞ。わしは何人か会うたことあるし、ひとりかふたりなら知っとる。ちょっとやそっとじゃお目にかかれん有徳のガルーや。仮にフッドの誰かが靴一足買うための二千円を恵んでくれよったら、素直に靴を買うたほうがエエぞ。まかり間違っても吉野屋行って牛丼なんか食うなよ。後つけられて、おまえさんの毛皮で二千円払わされんぞ。フッドに助けて欲しかったらな、ガキだけは学校に入れて、読み書き習わせとくこっちゃ。そやないと手ェ貸してくれん。ガキかっさわれて、里子かなんかに出されんのがオチや。奴らは理想主義の慈善家なんや。何が正しい行いか、いっつもわかっとるとは限らんけど、長年やっとるうちに随分慣れてきよった。人から話を聞いたら、それが眉唾もんかどうかわかりよる。
 日本じゃあ、『鼠小僧』とか『怪傑黒頭巾』とかゆう名前で呼ばれたりすんな。

ディザーター(Deserters:放棄者)
 さあ、グループきってのイカレポンチどもや。ええか、トランプ一揃いのうち数枚のカードだけで遊んどるノーアーらがそこにおるとせえや。そら構へんで。世の中いろんな類の奴がおるからな。ディザーターはそういう類の連中やゆうこっちゃ。異世界へ通じる秘密の入り口やら門やら抜け穴なんかを探し求めて、世界じゅうをあちこちさまよっとる。ボーン・ノーアーの中じゃ一番アンブラで過ごす時間の長い奴らや。それっちゅうのも、「船をジャンプさせて」住みつける異世界 を探したいからなんやと。
 誤解せんでくれよ。誰でも目標はあったほうがエエわな。ただ、あいつらはお星様手に入れたがってんちゃうかぁ、次のメシ探さなあかんときに。連中は普通「爺っさま」や「婆っさま」といった地位をおいてへん。「とっつぁん」や「おばはん」もあれへん。代わりに役職があるんや、「船長」とかな。あいつらは、なんかエエもん集めることよりも「素晴らしい新世界」を嗅ぎつけることに興味があるんや。白状するとな、昔連中のひとりからピカピカ輝く石をもらったことあんねん――むっちゃエエ取引やったわ。
 ま、あっちの世界に行ってしもた『電波系』の連中といったところやな。

ラット・フィンク(Rat Finks:たれこみネズミ)
 フィンクは、たぶん一番ようでけた情報収集機関みたいなもんを作り上げとる。世間から顧みられん、無視されたり見落とされたりしとる下層の全労働者らで構成されとんな。雑役夫とか用務員、整備員、ゴミ収集人、事務員、使い走り、ウェイター、テーブル拭き、港湾労働者、そんでから、もうちょっと範囲広げたら、秘書とか応接係なんかまでな。おもろい情報が転がってへんか絶えず目を配っとる。そんで、いろんな手段でデータをやりとりするんや。ファクス、伝書バト、紙マッチに書きつけた秘密の暗号、電話による合い言葉、内輪で通じる特定の言い回しを使うた個人広告、学校通いの子供の上着に留めたメモ、ボイスメールなどなどや。
 特別なフェティシュや儀式、ギフトを、情報を入手、処理するのに役立てとる。文書のフォトコピーとってる事務員をだーれも疑わん――その文書がペンテックスの重役メンバーの私信やってもな。ボーン・ノーアーは世間に気づかれてへん。
 「ドブネズミ」のノスフェラトゥと一番仲がエエ奴らでもある。

フランクワイラー(Frankweilers)
 お、『N.Y.のシェイクスピア』が属しとるキャンプや。あいつらのことでよう言われてることに、アホの集まりやゆうのがある。ところがどっこい教養のかたまりよ。そう、まさに正反対や。あいつらが暮らしとるとこは、画廊とか美術館、地下聖堂、地下納骨所、教会、寺院、図書館、公会堂、劇場、そういった芸術や文化の宝庫みたいな場所なんや。そういうだだっ広い文化的空間ちゅうのは、一度放棄されると、わしら同様寂しいもんやで。
 なんでフランクワイラーちゅうかって? 知らんのか、カニグズバーグの書いた『クローディアの秘密』ちゅう児童文学。家出した十二歳の女の子が弟と一緒にメトロポリタン美術館に隠れて暮らすようなる話や。さあ、そっから二人は「天使の彫像」の謎を解こうと……って、内容は自分で読んだらエエやろ。物語の最後のほうで、フランクワイラー夫人ちゅうのが出てくる。本の原題にもついとる名前で、それにちなんで誰か知らんがそう命名しよったんや。
 『ウィンガー(Wingers)』(博物館にはいろんな翼棟が伸びとるやろ、それにちなんどる)は芸術や科学の分野を研究しとる奴らや。『ワクサー(Waxers)』(ロウ人形館からついた名前や)は歴史の研究に没頭しとるな。ほかには『ブックワーム(Bookworms:本の虫)』ゆうグループがおる。骨のかわりに本を齧るのが好きな奴らやな。
 わし? わしは『詩的魔神(The Fiend)』や。J・H・ブレナンの本にちなんでな。

マンイーター(Maneaters:人喰い)
 わしらの中にはゲロ吐くような連中もおんねや、ニイちゃん。さあ話そかぁ、ホンマのことをな。飢えには気ィつけなあかん。炊き出しやってくれるとこに行くんや。たこ焼き売っとる屋台の兄ちゃん脅してもかまへん。とにかくやったらエエねん、くそったれなことでもな、腹すかしすぎたら絶対あかん。二本足のしし鍋とゆうか、身の毛もよだつ豚汁とゆうか、死肉の串カツとゆうか、とにかく一度その味を覚えたら、ちょっとやそっとじゃやめられんようなるぞ。シャブとか酒とか×××とおんなじで、人肉は絶つんが難しいんや。そらうまいやろけどな、気ィついたら、真後ろにワームが迫ってるだけやぞ。そやからこそ『人禁令』を定めたんや。あまりに多くのガルーが身を滅ぼしてしもた。一線を超えたもんに取り憑いた『人肉の災霊(Manflesh Bane)』にな。
 ええか、こういう狂犬ども見つけたら、しばき殺してまえ。現行犯やのうたら、そのガルーがいつ人喰ったかなんてわからんって? そうや、そこで昔のえらい連中が集まって、それをつきとめるための儀式を練り上げたんや。人肉喰った奴がその呪術をかけられると、途端にぜーんぶ吐き戻しはじめよる――脂のかたまりから血塗れの肉片まで地面にぶちまけてまう。見た目最悪やけど、絶対確実や。

ヒルフォーク(Hillfork:田夫野人)
 周りを見てみぃ、実態が見えてくるやろ。貧困や不況のあるところ、強い意志の必要なところに、わしらボーン・ノーアーありや。キンフォークの行くところ、どこにでも一緒に旅して、街の外の暮らしもいくらか学んできた。
 ヒルフォークは、片田舎の暮らし方、生き延び方を身につけたガルーや。大概、山ん中に住んどる。山がお気に入りなんは、人里離れたとこやとあいつらのいっちばん好きなことがやりやすいからやろ。許可なしに地酒つくることや。ディリリウムで秘密が守られとるデッカい酒造所を持っとんねんけど、キンフォークとほかのガルーにだけ配っとる。連中のつくる酒は新月んとき一番強うなるそうや、噂じゃな。
 感じのエエ連中や、この頃じゃほとんどがキンフォークやな。こないだヒルフォークんとこ訪ねたときは我が目を疑うたわ、レッド・タロンとフィアナの奴が小屋の戸口ん前で待ちぼうけくらっとったんやぞ。連中はかなり仲良うやっとるみたいやが、タロンの阿呆はわしにあんまり好意的やのうたな。

以下にキャンプとは異なる組織をふたつ紹介しておきます。

バーキング・チェイン(吠える鎖)
 主に、街の野良犬、ペットの飼い犬、逃げ出した狼(ごく少数)から構成される集団で、ボーン・ノーアーが都市の様相の移り変わりに後れないようにするための手段となっています。ラット・フィンクの情報網とは別に存在し、バーキング・チェインはボーン・ノーアーのガリアードたちで結成されています。
 犬の誰かが、興味深い情報を発見すると、次の順番の犬に向けて、調子の高い大声でひとしきり吠えます。そういった鳴き声や唸り声、遠吠えはすべて犬にとって何らかの意味があり、犬たちはそれに応じてチェインにおける次の犬に向け吠えはじめるのです。ついには情報が街じゅうに知れ渡り、地方にまで広がります。ボーン・ノーアーはたびたびバーキング・チェインを使ってワームの接近を警告してきました。
 ボーン・ノーアーだけが、その情報を本当に理解し、活用することができます。

リング・オヴ・シャドウズ(影の一味)
 ボーン・ノーアーには中央政府や憲法に相当するものはありませんが、ラットキンの忠臣たちが仕えている古老の集まりが存在します。この集団をリング・オヴ・シャドウズと呼んでいます。リングには、ラットキンやノスフェラトゥ、その他の闇の世界の住人たちも加わっているという噂もあります。リングはあらゆる地域の全ボーン・ノーアーに影響力を持っており、ノーアーたちに助けが必要だと判断すると、彼らを支援します。ボーン・ノーアーが有するグループの中では、最も権力機関に近いものといえるでしょう。メンバーは胸に黒い環の焼き印を押されており、みなそれぞれに少なくとも一人か二人ラットキンの護衛か使者が仕えています。

注:ラットキン(鼠眷)――『鼠の母御(Mother Rat)』が生み出した、人の姿をとることのできる鼠の獣人たち。『憤怒戦役(War of Rage)』によって、そのほとんどが滅ぼされました。ボーン・ノーアーからは高い敬意を払われています。

形質
 毛の抜け落ちが目立つ、ジャッカルのような人狼で、大きな犬に似ていることも多いようです。毛皮は調和のとれていない色のごた混ぜに染まっており、たいてい悪臭を放っています。ガルーとしては小柄ですが、その体格からは考えられないほど強靭です。ボーン・ノーアーの出身はどの大陸からでも考えられ、どんな人種や文化環境でもかまいません。生まれが何であれ、ノーアーはみな最下層の生活を送ることになるのです。

テリトリー
 ボーン・ノーアーは街の打ち捨てられた機能していない区域に閉じこもっていることが多いようです。大体が屋内を避け、青空の下で生活するのを好みます。

保護対象
 ボーン・ノーアーは、ガイアの迷子たち、すでに盛りを過ぎた人や一度として成功を得たことのない人を見守っており、自ら助くる者を助け、休むことを知らぬ者にそっと休息を与えてやります。金持ちで情のない人間、その貪欲な心でガイアの恵みを塵に変えてしまう者を特に忌み嫌っています。都市に居場所を見つけられぬ人々のあいだで育つため、つかの間の名声といったものに目を向ける気にはなれないのです。

これにてひとまず
「フーッ、ようけ話したな。ニイちゃん、まだ聞きたいんか? そんなら、ワンカップもう二、三本つけてくれんと。腹も減ってきたわ、なんかうまいもんないか……そや、イカ焼き買うてきてくれや、お好みでもエエから」
 『浪花のシェイクスピア』は、わたしが差し入れに買ってきた雑誌を袋から取り出した。
「待っとるあいだ、『アサヒ芸能』でも読んでヒマつぶしとくがな、さあ、行った行った!」
 彼はニヤニヤと笑いを浮かべて、渋っているわたしを睨み付けた。
「オモロイ話はまだまだあんでぇ。わしらの祭りのこととかな。地下鉄の電車の屋根に跳び乗って、梅田と難波の地下街を駆け回るのなんてどないや。毎年開かれる「宝探し」大会もあんぞ。大阪まるまる舞台にして繰り広げられんのや」
 この老獪なボーン・ノーアーの『説得』には降参するしかない。わたしは彼を満足させる「うまいもん」を買い求めるため、その場を後にしたのだった……



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