Black Furies
Blood of the Sisters, Rage of the Mother


「誰もおまえが入るところは見なかった。出るところを見なくても誰も気にしないわね」

■孤高の女戦士たち
■アルテミス崇拝
■男性優位思想との戦い

起源
 ルナは様々な顔を持つ。神秘的で気まぐれ、そして嫉妬深き女神でもある。夜空を見るがいい。ルナは顔をガイアに向けたかと思えばそむけ、そむけたと思えば向き直る。これはルナの嫉妬ゆえのこと。そしてその嫉妬から強い戦士たちの部族が一つ生まれたのだ。よくお聞き、仔狼(カブ)たちよ、すれば学ぶこともあるだろう。
 さて、世界がまだ若かった頃、ウィーバーがワームを網に絡め取りワームの秘密を搾り取った時、二者の闘争が災厄を招くだろうことをガイアはすでに見越しておられた。熱が出る前ぶれを感じるように、妊婦がお腹の子供の強さを予感するように、ガイアには未来の暗黒が感じられた。そこでガイアは力を振り絞り、ガルーを初めとするあらゆる獣人たちに命をお与えになった。
 ルナは獣人たちが生まれるのを見守り、ガイアの頼みに応えて快く獣人たちに加護を与えようと言った。しかしルナが気に入らなかったのは、自由気ままに走り回っている生き物たちが、どれ一つとして自分のものではないということだった。すべては第一にガイアのものであり、ルナはその次なのだ。
 そこでルナは自分をガイアと同じようにあがめてくれる生き物を探すことにした。天を渡る間に世界中を見回し、そしてついに求めていたものを見つけた――地中海沿岸をなわばりとしていた、黒い毛皮もつガルーの娘たちを。「これはいい。この子たちなら立派にやってくれるだろう」とルナは考えた。
 狩りの女神アルテミスの姿をとって、ルナはガルーたちの中に降臨した。月の女神の輝かしき姿を見るやいなや、たちまち全員が片膝をついてかしこまった。アルテミスはそれを見て微笑んだ。「そなたらは私を知っておるのか」
 頭を垂れた五人の中で、一番年長で最も美しい一人――メデューサという名の女が言った。「女神よ、存じ上げないわけがありましょうか。我らの血があなたの名を歌いかけているというのに」
 アルテミスは再び微笑んだ。「聞きなさい。私は世界中を見てきたが、寝食まで共にするそなたら五人より強い女はいなかった。そなたらは奔放にして不屈。それを見込んで頼みがある」
 再び五人は一斉に頭を下げた。「女神よ、どうぞなんなりと」低く響く声でイスメーネーが言った。
 するとアルテミスは女たちの間を歩き回って、一人に一つずつ霊宝を授けた。
「エウリュアレー、そなたには私のマントを授けよう。ヘレネ、そなたには膏薬を。ステンノーには手綱を授けよう。メデューサはこの織機(はた)をとりなさい。イスメーネー、そなたはこの弓をとって、我が名のもとに多くの獣を狩るがよい。
 ただしよくお聞き。私が授ける力は、そなたらが身を清く保ち、私の名に忠実である限り、そなたらだけのもの。私が教える秘密は、人間の男にも狼の雄にも明かしてはならぬ、男が知っても理解できず馴染めない知識ゆえ。よいか、力と智恵はそなたらだけのものぞ」女神はみたび微笑んで、両手を広げた。「さて、私はもう行かねばならぬ」
「お待ちください!」ヘレネが叫んだ。「まだこれらの霊宝にどんな力があるのかさえ伺っておりません。我らはいかにしてあなたの名のもとにこれらを使えばよいのですか?」
 アルテミスは天に戻って行きつつ答えた。
「私は常にそなたらと共にある。しかし我が秘儀を世界中に広めるわけにはゆかぬ! 私が授けんとする知識はそなたらとその娘たちだけのもの――愚者の耳には聞かせとうない。森の奥、山の深く、いまだ人の汚れを知らぬ場所で、私を探すがよい。そこでそなたらに太陽と月の秘密を教えよう」
 そういうわけで、5人のガルーの娘たちであるブラック・ヒューリー族は、今日に至るまで原初の自然が残る地を守り続けている。そこで月の狩人、女神アルテミスに語りかけるのだ。しかし女神は気まぐれなので、いまだ秘密のすべてを明かしてくれてはいない。だがブラック・ヒューリー族はアルテミスの智恵は門外不出と心得ているから、不届き者が秘密を盗み聞きしようものならどうなるか……

解説
 ギリシャ出身の部族ですが、この二世紀で北米にも勢力基盤を確立しました。部族の始祖〈五姉妹〉First Daughtersがみな黒い毛皮の雌狼であったことからブラック・ヒューリー(黒き怒り)の名があります。誇り高く勇猛果敢、また神秘思想に造詣が深いことで知られていますが、何より有名なのは、部族のほぼ全員が女性であるということです。男の子が産まれるとキンフォークに預けるか、他部族に養子に出してしまいます。主な受け入れ先としてはチルドレン・オブ・ガイア、サイレント・ストライダー、スターゲイザーなどが多いようです。古くは殺すか生け贄にしたと言われますから徹底しています。
 もちろん理由は単なる男嫌いなどではありません。ブラック・ヒューリー族は、ガイアを古代信仰の女神と同一視しており、同じ女の方がより深くガイアを理解できると考えています。自分で生命を育むことのできない男には、決して分からない部分があるというのです。また、月の精霊ルナを、狩りの女神アルテミスの名で崇拝していることも理由のひとつです。アルテミスは〈五姉妹〉に五つの聖宝を託し、女性と自然を守るよう命じたといわれます。ゆえにブラック・ヒューリー族は、あらゆる女性を虐げるもの、自然を穢すもの、女神を冒涜するものに対し、女神に代わって怒りの鉄槌を下します。そのため男性優位の風潮が強いゲット・オブ・フェンリル族とは昔から血なまぐさい確執があるくらいです。男性にとっては、追い出されなくとも肩身の狭い部族でしょう。
 ブラック・ヒューリー族は古代の秘儀宗教とも関わりが深いせいか、部族の儀式はきわめて凝った美しいものです。また部族のギフトにはワイルドに関係するものが多くなっています。ワイルドの精霊を直接召喚できるのはこの部族ぐらいでしょう。 この部族は気性こそ激しくても人口はきわめて少なく、その過激なスタンスゆえに敬遠するガルーも大勢います。とはいえ名誉を非常に重んじる部族柄で、敵対関係にある部族でさえ、ブラック・ヒューリーの誓いが信頼に値することだけは認めるくらいです。チルドレン・オブ・ガイア族の助言で最近は多少態度が軟化してきたとはいえ、やはりブラック・ヒューリーを敵に回すのは危険な行為です。

歴史
 ブラック・ヒューリーの歴史は女性復権の戦いの歴史と言っても過言ではありません。そもそも部族の始祖〈五姉妹〉自体、そのために五頭の黒い雌狼から創造されたという説もあるくらいです。ちなみに〈五姉妹〉の構成はエウリュアレー(ラガバシュ)、ヘレネ(サージ)、ステンノー(フィロドクス)、メデューサ(ガリアード)、イスメーネー(アールーン)となっています。「起源」の項ですでに述べたように、ルナ=アルテミスから五つの聖宝と使命を授かった〈五姉妹〉は、めいめい一つずつ聖宝を携え、方々に旅立ちました。聖宝の真の力とその在処は、最高幹部であるインナー・カリクスの五人だけしか知りません。
 ゆっくりと、しかし確実に、ブラック・ヒューリー族は古代の聖地の数々をガイアの敵から取り戻して部族の拠点とし、そこにケルンを築きムーン・ブリッジを架けていきました。ワームにそそのかされた男たちが女たちを征服しようと企んだため、人口を抑制することで男の力を削ごうと〈大淘汰〉Impergiumにも参加しました。一部の地方では、ひそかに穀物を枯らす麦角病をもたらして、血を流すことなく人口を抑制することに成功しています。しかしやがてヒューリー族は〈大淘汰〉の終焉を望むようになり、チルドレン・オブ・ガイア族と協力して〈大淘汰〉を終わらせるべく尽力しました。
 ワームの最大最悪の使者、それが「父なる神」Patriarchでした。憎悪を司るワームの化身アボーラ(Abhorra)の部下にして、男性の嫉妬の権化であるインカルナ(Incarna)です。
 「父なる神」は中近東を中心に、多くの名のもとに男性主神の宗教を広め、女性の肉体は汚らわしく、その思想は愚かしいと説き、男性の権威の下で女性を飼い慣らしてゆきました。「父なる神」の預言者に言葉巧みにあざむかれ、女たちはいつしか自分たちは男に従属すべきもの、生まれつき罪深いものと思いこむようになってしまいました。
 もちろんブラック・ヒューリー族は怒り狂い、この濡れ衣を晴らそうと奔走しましたが、すでに人間の女たちの魂はすっかり男性主導の社会の型にはめられてしまい、「父なる神」はおびただしい化身をもってヨーロッパを、アジアを、そしてアフリカを席巻しました。ブラック・ヒューリー族は異教徒を率いて度々キリスト教に染まったローマやギリシアを襲撃しましたが、その異教徒の中にも改宗する者が現れるに至って、ある者はこれも時代の流れとあきらめて聖書の中に女神信仰の名残を求め、ある者はあくまで「父なる神」を拒み、わずかな異教徒と共に辺境に残りました。
 ローマ帝国が崩壊したとき、多くのヒューリー族はこれで「父なる神」の野望も潰えたと思いこみ、女神信仰を捨てた人間の女性たちのことはあきらめて、都市を離れワイルドが支配する山野の奥に引きこもってゆきました。「父なる神」の様々な宗教を奉じる国々は相争い、ヨーロッパと中東に聖戦を巻き起こしました。
 キリスト教化された後もなお、ヨーロッパには女神信仰が形を変えて細々と生き残っていました。その最たるものがウィッチクラフト(魔女術)です。人間ばかりでなくブラック・ヒューリー族のキンフォークにも実践者は数多くいました――魔女裁判が始まるまでは。
 魔女裁判は男性に小生意気な女や気にくわぬ隣人を「懲らしめる」絶好の機会を与えました。悪逆非道の数々、人倫にもとる拷問、おぞましく凝り固まった偏見……筆舌に尽くしがたい虐殺の時代の幕開けでした。想像を絶する拷問の果てに死んでいった「魔女」は、一説によれば900万人といわれます。隠遁していたヒューリー族が事態に気づいたときにはすでに手遅れでした。多くのウィッチ・ハンターはヴァンパイアとの戦闘を経験しており、ワーウルフとも一戦交える用意は調っていました。ワームがそれに便乗し、ガルーと戦うための力をウィッチ・ハンターに貸し与えました。なお悪いことに、ゲット・オブ・フェンリスは密かに魔女狩りを支援したといいます。ブラック・ヒューリーは必死に抗戦しましたが、いかんせん数が少なすぎました。銀の武器で武装した群衆の前にガルーは倒れ、キンフォークは狩られ、拷問の果てに焚刑に処せられました。
 魔女狩りの熱狂はほぼ300年近く続き、戦いに疲れ果てたヒューリー族は、やがてキンフォークと共に開拓者として新大陸アメリカへ渡ってゆきます。アマゾンに移住した一部を除いて、ほとんどが北米に残りました。
 ふたたびワームの穢れを知らぬ土地を手に入れたヒューリー族は、フィンガー・レイクズ(ニューヨーク州西部にある11の細長い氷河湖群)の強力なケルンをワームから奪回し、「フィンガー・レイクズの誓い」を立てました。この大陸には、けっして、あの魔女狩りのような恐怖の到来を許すまいと。
 世紀末の現代、ブラック・ヒューリー族は各地に散らばりすぎて非常にまばらになっています。女性の地位を向上させようというヒューリー族の試みは(少なくとも一部の国では)多少の実を結んでいます。しかし試練の道はまだまだ遠く、《黙示録の刻》到来の前に目的を達するのは不可能ではないかと絶望する者は多いようです。そのうえヒューリー族はあまりに数が減りすぎて、女性運動とワイルドを守る戦いの両方に十分な力を傾けることはとうてい難しくなっています。年々ヒューリー族の死亡数は出生数を上回る一方で、年々穢されるワイルドの聖地の数は増えてゆきます。他部族の女性を迎え入れてもとうてい十分とは言えません。今日、多くのヒューリー族は二つの使命の板挟みにあって悩んでいます。女性の地位を向上させる戦いとワイルドを守る戦いのどちらにも勝利を収めることなど無理だと思われるからです。いまなおブラック・ヒューリー族は誇り高さが災いして他部族に協力を依頼することすらできずにいます。他部族の間ではヒューリー族は世界の半分を自分たちだけで背負い込もうとしていずれ破滅するに違いないという悲観論も出ています。
 それでもなお、ヒューリー族は大切なものを守るためこの世紀末にますます果敢に戦い続けています。たとえば一部のヒューリー族は数年前にボスニア・ヘルツェゴビナで起こった強姦キャンプをはじめとする残虐行為に終止符を打つべく現地に向かいました。そのほとんどは以来杳として消息が知れず、いつしか巨大で邪悪な力がこの地方を徘徊していて民衆の苦しみを餌にしているのではないかと考えだしたヒューリー族もいます。また別の者は、バンコク、アムステルダム、ニューヨーク、香港に潜入して、人の堕落を糧とする《冒涜者》ワームの陰謀のおぞましい証拠を発見しました。ブラック・ヒューリー族はこの悪魔の組織と戦うため他部族のガルーに協力を呼びかけることもありますが、ほとんどの場合、犠牲者の苦しみを見るに見かねて激情のあまり味方を集めることまで考え及ばないのが普通です。

社会
 ブラック・ヒューリー族は世界各地に散らばっており、最も未開の自然が残った、人跡未踏の秘境を独占しています。
 狼族であれ人族であれ男性は部族の一員に認められず、通常ヒューリー族の聖地は男子禁制になっています。それにしては奇妙なことですが、混血の男だけは部族に迎え入れられます。もっとも、あまり権限や責任の大きい地位にはつけず、補佐的な役割に甘んじるしかないのが普通です。
 部族全体の方針を決定づけるのはカリクス(Calyx)と呼ばれる二つの統治機関です。アウター・カリクスは全世界のヒューリー族の中からくじ引きで選ばれた13人の女性で構成されます。アウター・カリクスは全世界規模での部族の活動を調整し、各々が担当の地域を監視し、必要とあればインナー・カリクスの指令を執行します。
 インナー・カリクスを構成する5人のヒューリー族はアルテミスが自ら選びます。この5人は部族の聖宝の守護者といわれ、少なくとも部族最高の決定権を有していることは確かです。五人はそれぞれアルテミスの五つの相を体現するとされ、五つの生まれ月それぞれを代表するにふさわしい実力を有しています。各々は固有の役職名で呼ばれます。ラガバシュは「最初の娘(First Daughter)」、サージは「大賢女(Elder Crone)」、フィロドクスは「偉大なる母(Great Mother)」、ガリアードは「楽師の女王(Mistress of Artisans)」、アールーンは「戦の長(Chief Warrior)」となります。この五人は必ずしもランクの高い順に選ばれるとは限りません。インナー・カリクスの一員としてふさわしいか否かを決めるのはアルテミスその人であり、選ばれた理由はアルテミスのみぞ知るものなのです。

 ブラック・ヒューリー族のキャンプは、「輪」を意味するギリシア語で「キュクロ(Kuklo)」と呼ばれ、次のようなものがあります。
■Amazons of Diana(ディアーナのアマゾネス)
 女性を虐待から保護することを主な使命とする秘密結社です。産婦人科を経営するかたわら忍耐強く患者の悩みを聞いてあげるソーシャルワーカーから、強姦魔やセクハラ男を暗い夜道で八つ裂きにする復讐の戦士まで、その活動はありとあらゆる場所に及んでいます。構成員は女性運動が盛んなアメリカ出身のヒューリー族が多いようです。その関係でアメリカやカナダの政治団体で女性差別撤廃のため活動しているメンバーが数多くいます。中にはパックを組んで「女性の敵」の本拠地を襲い処刑する過激派もいます。アマゾネスは同じガルーの男にすら協力することを潔しとせず、ヒューリー族とゲット・オブ・フェンリス族の血なまぐさい確執が続くことをむしろ喜んでいる節すらあります。

■Freebooters(自由の義賊団)
 世界の秘境を巡って埋もれたフェティッシュを探し求め、盗んだり隠したりしています。時にはフェティッシュ目当てにウクテナ族やトレメアのヴァンパイアを襲うことすらあります。これは昔ヒューリー族のパックがあるギリシア人ヴァンパイアの財宝を盗み出して以来、長い間続いている名誉ある伝統だといわれています。〈義賊団〉の関心は戦利品のフェティッシュを使うことではなく、二度と大地を害する目的で使われることがないよう取りあげてしまうことにあるのです。遺跡に隠された秘宝を持ち帰ろうとする冒険家(悪く言えば墓荒らし(笑))、あるいは悪党が貯め込んだお宝を鮮やかに盗み出す義賊(時にはその悪党が同じガルーだったりしますが)を想像するといいでしょう。
 また、忘れられた聖地、未だ知られざるワイルドの地を発見すると、ケルンが開かれ氏族が定着するまでそこを確保する露払い役を務めます。
 構成員は若く、大胆で、好戦的な傾向があります。一撃離脱のゲリラ戦法を得意とし、神出鬼没、臨機応変が身上です。もっぱら人のあまり住まないような辺境で活動するためか、部族の内情にはあまり首をつっこみたがりません。他部族や男性にも比較的こだわらず接触するようです。常に新しい冒険に飛び込んでゆく〈義賊団〉のヒューリー族は、一緒にいて退屈しない仲間であることは間違いありません。

■Moon-Daughters(月の娘)
 もとよりブラック・ヒューリーは秘儀宗教的色彩の強い部族ですが、それを最もよく体現しているのがこのキュクロです。しばしば〈月の娘たち〉は、ヒューリー族の神秘思想を平易な形にして、世界各地の人間たちのサブカルチャーに広めています。ヒューリー族のキャンプでも随一、平等主義で柔軟な思考をもつガルーたちの集まりで、周囲の人間たちの意識を啓発しようと絶えず努力しています。だからといって〈月の娘〉がありがちなニューエイジやペイガニズムの集団と決めつけるのは早計でしょう――戦場での勇猛さは部族の他の女たちにいささかも引けを取りません。おとなしいだけとなめてかかるのは大間違いです。

□The Order of Our Merciful Mother(慈母修道会)
 聖書の福音を逆手にとって、キリスト教にみられる男性優位敵思想を論破しようとするキュクロです。信仰には信仰を、というわけです。〈慈母修道会〉は聖書を研究し、その聖句を引用してキリスト教が差別する人々を擁護します。他のヒューリー族からは女神信仰と対立する宗教に与していると誤解され、糾弾されることもあるようです。
 ここの修道女たちの多くは混血です。父権主義的宗教のもとで発展した途上国や先進国の工業地帯に修道院を構え、表向きは父なる神の言葉を説きながらその実、母なる女神の道を教えています。
 〈慈母修道会〉はキリスト教会の影響力や制度を利用して多くのケルンを「産業開発」から守ってきました。昼は貧しい人々に奉仕し、夜は悪を狩るこの修道女たちの努力がなければ、ワームの支配は今頃とっくに揺るがしがたいものになっていたことでしょう。修道女たちは数こそ少なくともその信仰の力は強大なものです。

□The Sisterhood(「婦人会」)
 ヨーロッパで多くのケルンや都市を守っている、ガルーとキンフォークのネットワークです。〈月の娘〉と並んでブラック・ヒューリー族では最も穏健派のキュクロです。〈婦人会〉で男性のキンフォークが高い地位についていることは決して珍しくありません。創設者たちは、ヨーロッパで財産権の確保や人間の政府機関との交渉といった目的を果たすのは、女だけでは難しいという現実をとうの昔から認識していたのです。
 〈婦人会〉の起源は中世の魔女狩り時代に遡ります。ヒューリー族がローマ教会の迫害に遭い、男達の憎悪の的にされた女は残忍きわまりない拷問にかけられた頃です。〈婦人会〉はキンフォーク、人間、ガルーを問わず異端審問官に追われる女性を、比較的安全な土地に密かに亡命させる手引きをしました。またヨーロッパ各地で土地を買い上げたり、協力者に買わせたりして、ケルンの保護に務めたことでも知られています。最近ではアフリカやアジアにも活動範囲を広げ、財団や裕福なメンバーが土地を買い上げることで野生動物の保護をはかっていますが、こちらの計画は前途多難のようです。
 〈婦人会〉ではキンフォークが重要な役割を果たしています。魔女狩り時代から〈婦人会〉の歴史は戦いの歴史でもあったため、〈婦人会〉のキンフォークはそこらのガルーに引けを取らないほど戦闘技術に優れています。また、人間のキンフォークはたいてい多少の魔術をたしなんでいるので近隣から「魔女」と噂されることもしばしばです。〈婦人会〉のメンバーが「ストレーガ(Strega、イタリア語で「魔女」。人を追ったり誘ったりすると言われる)」と呼ばれるのはこれが由来となっています。狼のキンフォークは〈婦人会〉の拠点やケルンを守り、また伝令として各地に走ります。

□The Temple of Artemis(アルテミス神殿)
 〈婦人会〉の正反対、最も厳格なキュクロがこの〈アルテミス神殿〉です。極めて保守的で、狭量ともいえるほど古くからの因習にこだわります。とはいえ、やはり〈神殿〉の巫女たちはブラック・ヒューリー族の精神的支柱で、先祖伝来の知識を語り、女神の智恵の探求に身を捧げています。聖職者というイメージとは裏腹に、巫女たちは勇猛な戦士にして有能な狩人でもあり、全員がアルテミスの聖なる武器である弓矢の技に熟練しています。最も年老いた者(巫女はしばしば非常に長生きするものです)でさえ、オリンピック級のアーチェリー選手を凌ぐ腕を持ち、数マイル向こうの鹿を追跡することができます。しかし、巫女はほとんどの時間を儀式と修行と瞑想に費やさねばなりません。古代ギリシャ時代から少しも変わっていないと言っても過言ではないでしょう。
 何世紀にも渡って〈アルテミス神殿〉は部族全体の方針の決定に大きな影響力を及ぼしてきました。しかし今世紀になってアメリカ流の実用主義、自由主義が幅を利かすようになってからは、何かと肩身の狭いことが多いようです。

□The Bacchantes(バッカスの踊り巫女、別名マイナス(Maenads))
 ギリシャ神話の酒の神バッカス(別名ディオニソス)を崇める巫女たちは荒々しい狂女たちだったと伝説はつたえます。月光の下で踊り狂い、獣や人を生きたまま素手で八つ裂きにした、と。
 ある意味でこれは事実です。荒ぶる巫女たちは実在します。ガルーだけではなくキンフォークや普通の人間さえいます。ただし崇めているのは男性神ではありません。〈踊り巫女〉は母なる女神の怒り――破壊と死を司る相を体現しています。カーリー、リリス、ペレ、ティアマト、どのような名のもとにせよ、女神は怒るべき時に怒るのです。〈踊り巫女〉は怒れる女神を讃えるため、集会では強い酒や幻覚効果のある薬草を飲み、踊り狂ううちに神懸かり状態に陥ります。彼女たちの狂宴の凄まじさは、レッド・タロン族ですらそれを見れば胃が裏返しになるまで吐き続けるほどです。〈アルテミス神殿〉は何世紀にもわたってこの奔放な巫女たちに手を焼いてきましたが、神殿巫女たちでさえ、〈踊り巫女〉のあまりに純粋な業怒、原初のままの振る舞いには、密かな敬意を禁じ得ません。
 
◆復讐の母(The Avenging Mother)
 〈慈母修道会〉内部の少数セクトです。表向きは世界各国の紛争地帯で布教活動を行っています。しかし裏ではその世界規模のネットワークを利用してシルバー・ファング族に対する諜報活動を行い、部族の弱点や失政を探っています。〈慈母修道会〉はシルバー・ファングから人間社会とのパイプ役としてある程度の信用を勝ち得ていますが、その信用を隠れ蓑にしてファング族と他部族との関係を内偵しているのです。〈復讐の母〉はシルバー・ファングの指導者たちに正面きって対抗する力こそありませんが、もし他の勢力に加担することになれば勢力バランスを揺るがす要素になるかもしれません。

形質
 毛皮は黒く、白、銀、灰色の筋や縞が入ることもあります。ギリシャ発祥の部族ですが、現在は西半球のいたる所に分布しており、出身社会も多様にわたります。一般的に肩幅が広く、優美な体つきをしています。

テリトリー
 ブラック・ヒューリー族は人里離れて隠遁生活を送ります。たいていは大自然の奥深くで暮らす方を好みますが、わずかながら人間の街にひっそりと住んでいたり、政治団体を主宰したりする者もいます。かつてテリトリーのほとんどは人目につかぬよう魔法の力で隠されていましたが、こうした結界はワームの力でほとんど破られてしまっています。

保護対象
 女性の保護者を自認するだけあって、性犯罪に対しては情け容赦ありません。自分たちの手で(たいていは鉤爪で)裁こうとします。
 もう一つの保護対象はワイルドの聖地です。アフリカやアジア各地、南アメリカの奥地で冒険家、奴隷商人、宣教師たちが消息を絶った原因の多くは、ジャングルの奥深く、ブラック・ヒューリー族の聖なる秘境にうっかり足を踏み入れてしまったからなのです。

名前
 偉大な女性にあやかって選びます。エリス、カーリーなど、女神の名を貰うこともあれば、ハリエット・タブマン 、Z.ブダペスト、ルクレチア・ハウ、アメリア・エアハートなど近代の著名な女性の名をとることもあります。
 ヒューリー族でも古風な者たちは、内輪で話すときには月相を部族古来の称号で呼ぶ方を好みます。この呼び方では、アールーンは〈戦士(Warrior)〉、ガリアードは〈楽師(Artisan)〉、フィロドクスは〈母(Mother)〉、サージは〈老婆(Crone)〉または〈賢女(Wise One)〉、ラガバシュは〈娘(Daughter)〉となります。

台詞
「あなたもガルーなら、物質界と共に精霊界が在り、霊は肉を補うものであって、単なる迷信でないことは承知のはず。男には男なりの力と智恵があるように、女にも女だけの力と智恵があるというのが分からないのですか? つまらない低俗な心理学などいいかげんに卒業しておしまいなさい。人類が粘土で日干し煉瓦を焼きだすはるか昔から、私たちの役割は定められているのですよ」

――ブラック・ヒューリー族のサージ、《影の番人》カサンドラ・シャドウウォッチャー
偏見
■ボーン・ノーア――一見とるにたりない街のホームレス――でも意外なことまで知っているからあなどれないのよね。悪臭を別にすれば、けっこう役に立つんじゃない? 番犬としては。
■チルドレン・オブ・ガイア――高潔で親切。ただ敢えて文句をつけるなら、いつだって詰めが甘いのよ。それから、何でも話し合いで解決しようとするのもたいがいにしてほしい。天罰が下ってしかるべき連中をいつまでものさばらせておくのはちょっとね。
■フィアナ――すけべで自己中で酒癖の悪い飲んべえばっかり。ま、中にはブリジッドやリアノンを知っている奴もいるみたいだけど……ほんの一握りってところね。でも女性の考え方は私たちにとても近いものがある。フィアナ族の男たちと私たちが一緒に戦えばそんじょそこらのワームには負けないと思うんだけど、向こうは女と肩を並べて戦うなんて気にくわないでしょうね。
■ゲット・オブ・フェンリス――あのファシストの犬畜生! 保護者きどりで何でも自分の手柄にしたがるんだから。私たちがワーム打倒に向けて一歩進んだと思えば、ゲット族が二歩押し戻す。なんとかして止めさせるか……さもなければ楽に死なせてやるしかないわね、狂犬病の犬みたいに。
■グラス・ウォーカー――開発とかいって、やってることは奥地をワームが侵略しやすいように道をつけてるだけじゃない。こういう連中がいるから聖なる土地が次から次へと汚されてゆくのよ。何か手を打たなきゃ。それも今すぐ。
■レッド・タロン――いろんな意味で、ブラック・ヒューリー族の兄弟といってもいい部族ね。私たちも同じ目的で戦ってるって事を分かってくれさえすれば、すばらしい味方になると思うんだけど。
■シャドウ・ロード――人をおだてて利用するのだけはうまいあの連中は、昔っから嘘と不正で物事を自分の思うように動かしてきた。ヒューリー族との約束なんか一度も守った試しがないし、上の命令とあれば同じガルーを平気で売るんだから。連中を相手にするなら、どんな手を使っても本心を探り出すことよ。確信が持てないときは敵に回ったほうがまし。
■サイレント・ストライダー――無口だけど大切な仲間。私たちが広大なテリトリーを維持していられるのもストライダー族のおかげ。できるだけ助けてあげるといいわ。
■シルバー・ファング――たまたま英雄の子孫に生まれついたからって、ちやほやされて何でも言うことを聞いてもらえるのが当然と思ってるの? ばっかみたい。無視するつもりもないけれど、もしファング族の英雄気取りのおぼっちゃまが私たちの邪魔をしたりしたら、その鼻っ柱をへし折ってあげるわ。
■スターゲイザー――何かと謎の多い人たちだけど、ワームの襲撃を警告して私たちを助けてくれたことは一度や二度じゃない。スターゲイザー族の言葉は信用したほうがいいわ。あれでなかなか含蓄のあることを言うのよ。
■ウクテナ――めそめそしたゴミ漁りのイタチども。魔法のがらくたを探し回ったり、禁忌の呪術をかじったりして、私たちが築き上げてきたものすべてを根本から台無しにしようとしている。連中から目を離しちゃ駄目よ。古代の遺物には連中も真っ青の力ある品もあるんだから、見つからないようにしておかないと……
■ウェンディゴ――誇り高きネイティブ・アメリカン。でもプライドの高さが災いして私たちの援助の申し出を素直に受け入れられないこともしばしば。人の穢れを知らない大自然を守るウェンディゴ族の戦いは、私たちの戦いでもある。助けが必要なら一声かけてくれれば、いつでも駆けつけるわよ。


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